3周目

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《田中純一郎・3》 放課後。 俺は仏先生の指令を達成すべく、花巻先生のデスクを訪れていた。 「花巻先生、ちょっとそこまでよろしいですか?」 さすがに職員室内で問い詰めるわけにはいかないので、職員室をでてちょっといった先の、空き教室に花巻先生を連れ込むことにした。 「どうかしましたか?わざわざこんなところまで連れてきて。」 「ええ。今朝の職員会議での言動について、ちょっと。」 「今朝のですか?私、何かしましたっけ?」 花巻先生は怪訝そうな顔をする。自覚がないらしい。仕方ないので、ちゃんと説明することにした。 「今朝、年配の先生方に反対するようなことを言った件ですよ。うちの学校は徹底した年功序列制度です。組織を乱すような真似はやめていただきたいのです。」 すると、花巻先生はなおも怪訝そうな表情を浮かべた。 「反対したいことには反対していかないと、議論している意味がないじゃありませんか。」 すぐにそんな答えが返ってきた。 「あの会議は年配の先生方が決めた方針の細部を詰めるための場です。あなたの考える会議とはきっと意味が違う。私たちは黙っていればいいのです。」 こういうと、今度は怪訝そうな表情が元に戻り、不気味に思えるほどの無表情になった。 「…それは、あなたの本心ですか?」 静寂が流れる。開け放たれていた教室の窓から風がふっと吹き、無表情のまま小首を傾げていた彼女の薄い茶色の髪を揺らす。 頭が回らない。言い返す言葉が思いつかない。 「ちょっと散歩しませんか?」 しばらく黙っていると、彼女はこう言いだした。 「…え?」 今度は俺が怪訝そうな顔をしてるのを見て取った彼女が言葉をつけたす。 「あ、いえ、今話題の第二図書館を一度見にいこうかと思いまして。きっと面白いですよ。」 「あ、ああ、なるほど。いいですね。行きましょう。」 しまった。釘をさして終わりにしようと思っていたのに、ついオーケーしてしまった。 それにしても、彼女の無表情のあの迫力はなんだったのだろうか。とても大学を出たてのお嬢さんの迫力とは思えない。 第二図書館への道を行く花巻先生の姿は、随分と大きく見えた。
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