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《御船早緒.003》
●
早緒は目の前の事態を呑み込めなかった。
呑み込もうとするよりも早く、彼は反射的に『自分に何か非があったのか』どうかを考えていたからだ。そうしているうちに、早緒の体はどんどん透けていく。
「おいどうした!? ……ってなんだ、誰も、いな……」
1人の少女が勢いよく扉を開けて図書室に入ってくる。粗雑に開けられた扉の音で、早緒は我に返ることができた。
(えっ、え? ……だ、誰?)
気が付けば室内を見渡している美姫ではない別の女子生徒に、彼はまた新たな混乱に陥った。
「だ、大丈夫か?」
その女子生徒は倒れ伏した美姫に気が付くとすぐさま近寄り、状態を抱え起こした。
(……あれ、あの人なんだか、少し楽しそう……? いや、そんなまさかね)
「ああもう! なんでこんなに本が散らばってるんだ? 邪魔ったらありゃしない!」
そう言った女子生徒が本を一冊手に取ると、まるで意思を持つかのように他の周囲の本たちが女子生徒と美姫からすぅ、と離れていく。
それから。
「あのっ!」
「ひっ!?」
やっちゃった、と早緒は内心呟いた。
驚かすつもりはなかったにせよ、彼女にしてみればいきなり真横に早緒が片膝をついて現れたようなものだ。
しかし、彼女の表情は存外早く元に戻った。まるでそういうものだと納得したかのような変化の早さ。
「あんた、ここで何してる? 白河先輩をこうしたのも、あんた?」
「ちっ、違います! 僕は──」
途端、先程の美姫の目を思い出した。何かに怯えたような、懇願するような瞳。それは確かに、
「助けようとしただけで……!」
そう。
彼は美姫を助けようとした。それだけのはず、なのだ。
(だから僕は……何も、何もしてないよ。今度こそ、何も……今度、こそ……?)
「ふーん……。まあいいや、とりあえずお前、男、だよな? 白河先輩を保健室に運ぶから、手伝ってくれ」
「え……と、それは、できません」
「そいつは一体なんでだ?」
「僕はここから出られないからです」
「へえ? それじゃあ、まるで地縛霊みたいじゃないか」
「…………はい」
今でこそ完全に第2図書室での引きこもり生活をそれなりに楽しんでいる早緒ではあるが、意識を得た当初は何かと行動を起こそうとはしていた。
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