通勤電車の妄想恋

10/20

7156人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
心の中で赤の他人である私に心配されていることなど知るはずもないスーツ王子は、何やら考え込むように腕を組み、そして覚悟を決めたように顔を上げた。  その瞬間、バチリと目が合った。 やばっ、ずっと見てたのバレた!  今まで横目で盗み見は何度も、いや毎日していたけれど、こんなにもあからさまに目が合ったのは初めてだ。  無駄に心臓が高鳴ってしまうではないか。 私がどんなにドキドキしたところで、女性からの視線なんて嫌というほど浴びているスーツ王子にとっては、なんでもないことだろうけれど。 うわ、なんか変な女と目合っちゃったよくらい思ってるだろうけどさ。  気持ちを落ち着かせようと深呼吸していると、スーツ王子がこちらに近付いてきた。  え、なに、改札口は反対側ですけど。 え、ちょっと待って、すんごい近付いてくる。 怖くてスーツ王子の顔が見られない。  どうしよ、私、怒られるのかな。 なに見てんだよってドスのきいた声で叱られるのかな。  ひぃぃ、ごめんなさ~い!と心の中で悲鳴を上げながら謝っていると、スーツ王子は私の前に立ち歩みを止めた。 「ちょっと話したいことあるんだけど、時間ある?」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7156人が本棚に入れています
本棚に追加