通勤電車の妄想恋

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伝票を持ち、そそくさと店を出て行く背中をボーっと見つめ、姿が見えなくなったところで、ようやく頭が回転していく。  私が、エルニカに転職?  プロポーズは人生にとって大きな決断だけど、転職だって大きな決断だ。 私は今まで、のんびりと小さな文具メーカーで経理事務をしてきた。 目標とか夢だとか、そういうものがあって仕事しているわけじゃなくて、ただ学生時代に簿記の資格を取ったから、なんとなく経理事務を選んだ。 そんでゲームばっかりしていて就職活動もろくにせず、たまたま受かった文具メーカーで働いているだけだ。  給料は手取り十七万円で、今後もほとんど上がる見込みはないけれど、残業もないし、厳しくもなく、どちらかといえばかなり緩くノビノビと仕事をさせてもらってるから、辞めようなんて思ったこともなかった。  そんな私が、一部上場企業で、知る人ぞ知るアプリゲーム会社で働く?  ゲームは大好きだけど、好きだけでできるわけないことくらい、私でも分かる。 でも、あのエルニカでプロデューサーとして働く榊田蒼さんが誘ってくれたってことは、もしかして私、見込みあるのかな? 認めてくれたってことは、純粋にとても嬉しい。  でも、そんな冒険みたいな決断、すぐにはできないよ。  項垂れるように下を向くと、腕時計が目に入った。 「ヤッバっ!会社に連絡してないっ!」
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