場違いなオフィス

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転職の手続きでエルニカに行ったことは二度ほどある。 受付からすぐのところに、開放的な打ち合わせロビーがあって、そこで提出する書類や説明などを受けたので、別の階にあるオフィスにはまだ行ったことがない。  榊田蒼さんは忙しい方らしく、その時も会うことができなかった。 もしかしたら会えるかもと思って楽しみにしていたのに、とても残念だった。  四十三階建ての総合ビルの三十階と三十一階がエルニカのオフィスだ。 ここで立ち竦んでいても埒があかないと意を決してビルの中に入る。  一階の総合受付を横切り、IDカードをかざすと開く自動改札機を通る。 そこから高層階専用のエレベーターに乗り、三十一階のボタンを押す。 今日は三十階の受付に行かず、三十一階のオフィスにそのまま来てくれと言われていた。  ドキドキして足元がフワフワする。 こんな綺麗な新しいビルにこれから毎日通うのだと思うと、自分がまるで別の人物になってしまったかのようだった。  小さな文具メーカーに勤めて、ゲームばかりしていた頃の自分とはまるで縁のない場所だったはずなのに。 どうしてこうなった。
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