通勤電車の妄想恋

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妄想ではキスとか、デートとか、たまにそれ以上のこととか想像するけど、本当に恋愛がしたいわけじゃない。 本当の恋愛はよく分からないけど、なんか面倒くさそうだし、デートする暇あったらゲームしたいし、何より、二十六歳まで彼氏なしの冴えない女に恋する男がどこにいるんだって話ですよ。 いるなら紹介してください。 ただし、イケメンに限る。  ははは、こんな身の程知らずのこと言ってるから彼氏できないんだろうね。 分かってるよ~。  いいの、今のままで満足なんだから、私。 これでいいの。 このままでいいの。  そうして今日もスマホの画面と三次元のスーツ王子を交互に見ながらニマニマしていると、突然電車が劈くような甲高い音を立てて止まった。  急ブレーキに立っていた乗客たちは身体が横になぎ倒されるかのように傾いた。 幸運なことにそこまで混んでいなかったので、みんな手すりに掴まることができ転ぶ人はいなかった。  座っていた私も、突然のことにびっくりしたし、隣のサラリーマンが押すように寄っかかってきたもんだから痛かった。  いつも気怠そうな表情のスーツ王子も、鋭い目つきになって周りを見渡している。 やだ、こんな表情も素敵なんて思ってしまう私は、妄想の中での震えるか弱い私とは雲泥の差だ。 ただの変態だ。
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