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年老いて硬くなった手のひらに握られた杖が時折小石に当たり、カツンという音を立てた。山頂まで、あと僅かだ。しかし美枝の衰えた身体は、もう限界に達していた。一歩踏み出すごとに身体中の関節が錆びた金属のように軋む。
「あっ」
美枝は僅かな段差につまずき、小さな悲鳴をあげて前かがみに倒れ込んだ。ドッと鈍い音が早朝の山に響いた。腰が砕けるように痛く、立とうにも下半身が動かなかった。白髪の前髪がべったりと額にはりついていた。そのとき、上から人が降りてくる音がした。
「お前、お前、しっかりしろ」
美枝が顔をあげると、そこには52年間連れ添った夫である民次がいた。
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