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白で統一された病室に、点滴の音が反響する。
夕姫は病室の中で唯一温かさを感じさせる小窓に駆け寄った。
5才にしては小さな体の夕姫は、精一杯背伸びをして外を覗きこむ。
外はまだ明るいが、ほんのり夕暮れの香りがした。
窓から穏やかに風が入り込み、カーテンを揺らす。
夕姫は帰路に急ぐ人波の中から、待ち望んでいた姿を見つけ出した。
「…っ実藤(サネト)…!!」
小走りに病院に向かうその人影は、学生服に身を包み、黒塗りのカバンを手に持っている。
そのカバンには、夕姫が編んだ不格好なぬいぐるみが揺れている。
人影はなにか考えるように立ち止まり、上を見上げる。
夕姫は一瞬期待したが、人影はすぐ前を向き、自動ドアに吸い込まれていった。
(…今日も気づいてくれなかった…)
夕姫は淋しそうにうつむくと、ベッドに登り、すねたように膝を抱えた
(…毎日見てるんだから、気づいてくれたっていいのに)
とはいえ、仕方ないのだ。
夕姫が1日を過ごす病室は、6階。
それに加えて、小さな夕姫には窓は高すぎる。
外からでは、顔の半分も見えないだろう。
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