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「夕姫」
いじけていた夕姫は、その声に顔をあげた。
いつのまにか廊下へ続く扉は開いていて、実藤(サネト)が微笑み立っていた。
実藤の姿を見て、夕姫の瞳は晴れやかに輝いた。
実藤は駆け寄ってきた夕姫の髪を優しくなで、夕姫の心はいくぶんか穏やかになった。
「実藤」
夕姫はたっぷり息を吸って、実藤の胸に体を寄せ、おもいっきり抱きつく。
「うん?」
「学校の話聞きたい」
「いいよ、なにから話そうか」
夕姫が名残惜しげに実藤から離れると、実藤は床にカバンを置く。
そして、ベッドの前に置かれている椅子に座った。
夕姫は向かい合うようにベッドの縁に座る。
「なにから聞きたい?勉強?先生の話?友達の話?それとも、部活とか?」
「全部聞きたい」
実藤は困ったように首を傾けた。
「全部は無理かな?患者さんと面接できる時間の終わりが近いから」
泣きそうな顔をした夕姫の頭を、実藤はなだめるようにポンポンと叩いた。
「じゃあ、夕姫が好きそうな話をするよ」
「…うん」
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