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やがて青年は夕姫に目を移す。
『夕姫』
「なに」
『私の故郷では、お前のような容姿をした子供を夕暮れの子と呼んだ』
冷たい無機質な音が響く病室。
夕姫の体にいくつも繋がれた管の数。
『夕暮れの姿をした子供は、その美しさから神に愛される。神の寵愛を受ける。故に神は夕暮れの子を早く昇天させるのだ』
「…なにを言ってるの」
『昇天させた夕暮れの子は、愛妾として神に侍る。……お前の命は…もう長くないな…。天上の神が病を植えつけたか…』
夕姫の肩がビクリと震え、瞳が怯えるように揺れた。
「…私…もうすぐ死ぬの…?」
『長くはない。…自分でも分かっているだろう。日に日に衰えていく体に気づいているだろう』
夕姫は歯をギリッと食い縛る。
青年は静かに夕姫を見つめると、夕姫の前にしゃがんだ。
『…悔しいか』
「…まだやりたいことがたくさんあるの」
『…私なら救えるといったらどうする?』
夕姫は驚き、目を見開く。
「そんなことできるの?」
『…神が直接人に干渉するのは禁じられている。だが、心配はいらぬ。うまくやり過ごす』
「…やり過ごす?」
『ああ…。だからお前が悔いる必要はない』
同じ高さで視線がぶつかる。
神の藍色の瞳は、夕姫を飲み込むように深くまで続いていて、底がないように思われた。
神の周囲に光る光の粒子は、互いに挑むようにぶつかり合い、新たな光を溢れさせていく。
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