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ある嵐の晩、一人の女性が教会を訪れていた。その女性の白いブラウスは黒く染まり、その手もまた黒く染まっていた。彼女は十字の前にひざまずき懺悔を始めた……
「主よ、私は大切な人を殺めてしまいました。彼は仕事もせず、酒を飲んでは私を殴るような、決して良い夫とはいえませんでした。そんな最低の夫でも今まで歩んで来れたのは、私が彼を愛していたからなのでしょう……
昔の彼は有名な彫刻家で、彼の彫った彫像は貴族たちにとても人気でした。その頃の彼はとても働き者で、とてもいい夫でした。
そんな幸せだった生活を引き裂いたのはある、静かな夜のことでした。私たちの家に強盗が押し入ってきたのです。私は隠れていたおかげで助かったのですが、夫はそのときに腕を切り落とされ、左腕を失ってしまいました。片腕を失った彼は満足に作品を彫ることができず、次第に酒に溺れていきました。それでも私は、彼がいつか立ち直ってくれると信じて毎日働きました。
しかし彼は、毎日酒を飲んでは暴れ、私を殴りました。働くように抗議したこともありました。しかし返ってくる言葉は
「私には片腕がないのだ。お前には両方の腕があるのだからお前が働くのは当然だろう!」
と怒鳴り散らすのでした。それでも私が彼と別れようとは思わなかったのは、私がいなくなれば、彼はますます悪い方向へと向かってしまうのではないかと考えたからでした。彼には私が必要とそのときの私は思っていたのです。
彼は酒を飲まなければ昔の良い夫でした。変わってしまったことと言えば、仕事をしなくなってしまったことだけ。そのときの彼はとても優しい人でした。そんな、暴力と優しさの繰り返しも原因の一つだったのかもしれません。
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