9話 彼女の家

7/8
392人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
私は、彼女の前に行く。 「言えないことが、悪いことなんかじゃないんだよ」 彼女は、下を向いたままだった。 そして、私は痛感した。 彼女が、私にカミングアウトした時、どれだけの勇気が必要だったか。 私は彼女の味方でありたいと思った。 側にいたいと思った。 「あまり、私に優しくしないで」 と、彼女は顔を上げる。 距離が近かった。 しかし、この前のように、驚いたりはしない。 今は、この距離が合っている気がした。 私は、彼女を抱き寄せる。 彼女は、抵抗しなかった。 「優しくさせて」 と、言って回している腕を強くする。 すると、彼女も私に腕を回してくる。 私は、彼女のことが好きだ。 ずっとずっと前から、気づいていた。 でも、まだ彼女に好きだと伝える勇気がでないのは、なぜなんだろう。 いいや、本当はわかっている。 ただこわいのだ。 彼女を幸せにできる、自信がないのだ。 私は、あまりにも弱すぎる。 生まれたばかりの子鹿のようだと笑いたくなった。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!