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彼女のスマホがなる。
私は、腕を緩める。
「ママ」と、彼女はぼそりという。
この空気とは一転して、明るいお母さんの声が聞こえる。
私たちは、玄関に行く。
「じゃあまた」
と、言ったのは彼女だ。
「あー、うん。それじゃ、今日はありがとう、お邪魔しました」
と私は、歯切れの悪い返事をする。
玄関の扉を開け、家を後にする。
私は家の前に停まっている車に乗り込む。
「お願いします」
「あら、真綾は?」
と、お母さんは言った。
「家に残るそうです」
「そう、最後まで見送ったらいいのに」
と、少し不服そうだった。
彼女の家から駅までは、さほど距離はなく、あっという間に着いた。
「今日はありがとうございました。お昼までご馳走になってしまって」
と、車を降りる前にお礼を言う。
「いいえ。あんな娘でよかったら、仲良くしてあげてね」
と、微笑む。
「こんな私でよければ」
と、私は返事をする。
それから別れ、私はしばらく駅前で立ち尽くした。
大きな壁が、私の前にある気がした。
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