9話 彼女の家

8/8
392人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
彼女のスマホがなる。 私は、腕を緩める。 「ママ」と、彼女はぼそりという。 この空気とは一転して、明るいお母さんの声が聞こえる。 私たちは、玄関に行く。 「じゃあまた」 と、言ったのは彼女だ。 「あー、うん。それじゃ、今日はありがとう、お邪魔しました」 と私は、歯切れの悪い返事をする。 玄関の扉を開け、家を後にする。 私は家の前に停まっている車に乗り込む。 「お願いします」 「あら、真綾は?」 と、お母さんは言った。 「家に残るそうです」 「そう、最後まで見送ったらいいのに」 と、少し不服そうだった。 彼女の家から駅までは、さほど距離はなく、あっという間に着いた。 「今日はありがとうございました。お昼までご馳走になってしまって」 と、車を降りる前にお礼を言う。 「いいえ。あんな娘でよかったら、仲良くしてあげてね」 と、微笑む。 「こんな私でよければ」 と、私は返事をする。 それから別れ、私はしばらく駅前で立ち尽くした。 大きな壁が、私の前にある気がした。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!