10話 私と彼女

3/7
前へ
/139ページ
次へ
すると、彼女の後ろの方から「川上!いくぞー!」という呼ぶ声が聞こえてくる。 彼女は振り返る。 そして、「それじゃ、またね」と、言って、私に背を向ける。 私は徐々に小さくなる彼女の姿を黙って見ていた。 隣には、名前も知らない男子と笑い合う彼女がいた。 私は踵を返す。 そして、自転車を出してサドルに跨り、地面を蹴飛ばして、ペダルを漕ぐ。 バイトへと向かう道のりが、いつもより静かに思えた。 数日が経ち、水曜日を迎える。 図書室の扉を開けようとして、やめた。 中から声が聞こえる。 私は、ダメだと思いながらも、息をひそめる。 「あんたって、ゆうきくんと付き合ってるの?」 と、女の子の声がする。 その次に、面倒くさそうな彼女の声が聞こえる。 「付き合ってないけど」 「じゃあ!なんで、この前二人っきりで遊んでたのよ!」 と、今度は別の女の子の声がする。 いったい何人で、彼女を責めているのだろう、と思うとゾッとした。 「ゆうきに誘われたから行っただけ」 と、さっきと同じトーンの声がする。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

392人が本棚に入れています
本棚に追加