11話 美術室

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「私の完成した絵、一番にゆいに見てもらいたくて」 と、私に満面の笑みを向ける。 私は、嬉しさで胸がいっぱいになる。 そして、琴音はその布を「ジャジャーン」という効果音と共に引っ張った。 そこには、油絵で描かれた街の風景があった。 しかし、そこには人がいなくて、閑散とした印象を受ける。 「どういう気持ちで描いたの?」 と、私は聞いた。 琴音は、少し微笑んでから、自分の絵を見た。 「スランプに陥って思ったことがあったの、私の感情なんてほんの小さなことで、この街にとってはないに等しいのかもしれないって」 素人の私でも思う。琴音の感性は、どこか人とは違う。 普段の琴音を知っているからこそ、このギャップにいつも驚かされる。 「そしたらね、本当はこの町には誰もいないんじゃないかなって思った。手をつないで歩く親子も、自転車を漕ぐ若者も、全部ないことになっちゃうって」 琴音は、また私に目を向ける。 「だったら、おかしなことだよね?人はたくさんいるのに、それがないなんてさ。みんな隣に誰がいるかなんて、関係ないの」 私は言葉が出なかった。
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