392人が本棚に入れています
本棚に追加
「私の完成した絵、一番にゆいに見てもらいたくて」
と、私に満面の笑みを向ける。
私は、嬉しさで胸がいっぱいになる。
そして、琴音はその布を「ジャジャーン」という効果音と共に引っ張った。
そこには、油絵で描かれた街の風景があった。
しかし、そこには人がいなくて、閑散とした印象を受ける。
「どういう気持ちで描いたの?」
と、私は聞いた。
琴音は、少し微笑んでから、自分の絵を見た。
「スランプに陥って思ったことがあったの、私の感情なんてほんの小さなことで、この街にとってはないに等しいのかもしれないって」
素人の私でも思う。琴音の感性は、どこか人とは違う。
普段の琴音を知っているからこそ、このギャップにいつも驚かされる。
「そしたらね、本当はこの町には誰もいないんじゃないかなって思った。手をつないで歩く親子も、自転車を漕ぐ若者も、全部ないことになっちゃうって」
琴音は、また私に目を向ける。
「だったら、おかしなことだよね?人はたくさんいるのに、それがないなんてさ。みんな隣に誰がいるかなんて、関係ないの」
私は言葉が出なかった。
最初のコメントを投稿しよう!