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「私が、同性愛者だってことよ」
と、彼女は苛立ちを隠しきれない、という口調で、私を見る。
やはり、あの時の視線がよくなかった、と心の中で反省する。
「思ってないよ、そんなこと」
と、私は言う。
「うそ」
と、納得のいっていない顔をする。
「うそじゃないよ」
私は、嘘でもそうでなくても、ここで肯定してはいけない気がした。
すると、彼女は少し大きな声を出す。
「うそ!」
私も、負けじと声を出す。
「うそじゃないよ!」
また彼女は大きな声を出す。
「うそよ!!」
私も意地をはる。
「うそじゃないってば!!」
彼女は、途端に悲しい顔になり、弱々しく下を向く。
「…うそつき」
と、消えそうな声で言った。
私は何も言い返せなくなった。
「言えないわ、だってこわいんだもの」
と、震えた声で続ける。
私は、彼女との距離を寂しく感じた。
「…言えなくて当然だよ、こわいよ、誰にだって人に言いたくないことはあるし、言いたくても言えないこともある。それを誰が責めれるの?」
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