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うっかり眠ってしまった。
危うく、彼が帰ってしまうところだった。
「起こしてくれたらいいのに…」
もうすっかり衣服を整え 何事もなかったようにネクタイを軽く直している背中に、声を掛ける。
「良く寝てたから…可哀想になって」
私の声に振り返る、会社と同じ顔の彼。
あぁ
また現実が戻ってきたんだと実感する。
シーツを身体に巻き付けて、ゆっくりと起き上がった。
「帰る時は見送らせてくれる約束でしょ?」
「そうだな」
抑揚の無い声は、明らかに彼が甘い夢から覚めた証拠。
それでも今夜は、シーツごと私を抱き寄せ頬にキスをくれた。
こんな小さな〝ご褒美〟が私の心を舞い上がらせる。
「じゃ、おやすみ」
「気をつけてね」
玄関の扉が完全に閉まるまで、愛しい人を笑顔で見送ることは私が決めたルール。
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