プロローグ

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こんな関係を一年近く続けていて、虚しくないのかと友人達は心配してくれる。 有難いことだ。 今年で私も29歳になる。 ーー虚しくない訳がない。 『あいつとは、いずれ離婚する』 一度きりの関係のつもりが 初めて抱かれた日にその言葉を聞いた瞬間、まるで魔法にかかったように私の全てが麻痺した。 〝そんなの、嘘にきまってんじゃん〟 〝あんたを捕まえとく常套句だって〟 みんなに言われた。 一年前の私なら、友達が私と同じことをしたら きっと同じセリフを言うだろう。 けれど 私は知ってしまった。 不倫という哀しい背徳の響きに溺れ、もがき苦しみながら いつかは彼が、私だけのものになる未来を夢見る快感を。 彼は『嘘』なんかつかない。 私だけが、彼を信じてあげられる。
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