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安呪寺の入り口の手前の道が少し広がった場所の横に置いてある丸太に腰かけた。
「菊野様…。菊野様はこの土地の者ではない。菊野様は、それはそれは美しいお方でな、誰にも優しゅうて、世の中の流れにも敏感でとても賢いお方じゃった。
あのようなお方は二度とお目にかかる事は出来ないじゃろうな。
菊野様は身分の高いお方だったが、どんな身分の者でも隔たりなく接してくれたんじゃよ。
菊野様は、この安呪寺に静養にいらしていたんじゃ。誰からも好かれておったわ。
ある時、大名の若様が菊野様を見初められて、どうしても嫁にほしいとおっしゃったんじゃ。
その若様もお優しいお方での、仲睦まじい姿に、菊野様を幸せにしてくれると村中で喜んだんじゃ。
ところが、若様に想いを寄せていた大名の姫様が、それを聞いて嫉妬のあまりに菊野様に呪詛をかけたんじゃよ。」
呪詛…この流れは…間違いない。怖い…物語。永瀬君を見ると、目で大丈夫ですよと言っている。俺は怖がりなんだ!
「安呪寺の和尚様が菊野様を守るために呪詛返しを行ったんじゃ。
それはもう…凄まじいものだった。和尚様も命を落とすところだった…姫様の怨念は強すぎて、このままでは菊野様が殺されてしまうと、仕方なしに残った姫様の怨念を日本人形に封じ込めたんじゃよ。」
「これですか?」
永瀬君が携帯の画面を見せる。
「そうじゃよ。その人形じゃ。今、どこにあるのやら…。」
おじいさんは、ため息をついた。
和尚様が生きていた頃は、その日本人形を供養してくれていたそうだ。
もし、供養が途絶えれば災いが起こると、おじいさんは悲しげな顔で言った…。
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