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「うわぁ。」
思わず投げ捨てようと手を動かした……つもりだった、が未だ手の中には携帯がある。
自分の体ではなくなったかのように、手は一ミリも動いてはくれない。
握りしめた携帯を投げ捨てることも、携帯の電源を切ることも出来ない。
ただ女が口を動かしながら近づいてくる姿を、女が伸ばした手が画面一杯に溢れそうになっている事実を、視線を逸らすことも出来ず見つめていることしかできない。
喉は渇れて張り付き、口からはうめき声が漏れ出す。
身体中の毛穴という毛穴から汗が溢れだし、頬を伝った汗が画面の上ではねた。
女が目を細める。
携帯を握りしめた手に、ひんやりと冷たいものが触れた。
動かした視線の先には白く冷たい手、ニマリと歪んだ瞳。そして耳元でささやく声。
『ツカマエタ』
一気に背筋を駆け抜ける鳥肌。渇れた喉から声にならない声をあげた。
――ガタン
暗闇の中静かに光を放ちながら携帯が床にぶつかる音が部屋に響いた。
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