冷たい指先

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 携帯の画面に映っていたのは見知らぬ女だった。  赤く燃える夕日が差し込む部屋の中、俺は携帯を握りしめベッドを背もたれにして座り込んでいた。  透き通るように白い肌に、漆黒の髪。微笑む口許にはえくぼの代わりに黒子が一つ。ソレがなまめかしく感じるのは、挑むような瞳の為か。 ――ゴクッ、喉が音をたてる。  夕日を反射した携帯へと手が伸びる。  指が意思を持ったかのように女の口許をなぞる。顔を、髪を、体を……。液晶の上から何度も何度も。  女の瞳が妖しく煌めく。 「早くお風呂に入って!」  静寂を打ち消す様に響いた母親の声に、現実へと引き戻された。 「わかった。」  そう返事をし頭を上げる視線の端で、女の口が微かに動いた……様に見えた。  部屋はすっかり暗闇に包まれていた。 「さっきまで明るかったのに……、暗くなるのが早くなったな。」  携帯をベッドの上に置き立ち上がると、明かりを求め暗闇の部屋の中ソロリソロリと入り口へ足を進めた。 ――ガタンッ  物音にふり返るとベッドから落ちた携帯が床の上で光を放っている。 「ちっ、そんなに端に置いたかな」  一人文句を言いながら携帯を拾い上げ、ふと口元が緩んだ。  何も暗闇の中歩く必要はない。ライトをつければいいじゃないか……。  モバイルライトを着けようと画面へ手を伸ばしかけ、首をかしげた。 「あれっ」  女の姿が近づいている。 「ズーム?」  ベッドから落ちた時にズームされたのか。そう思いながらも違和感が襲ってくる。  女の微笑んでいた口許が微かに緩んでいるように見える。 「ズームされるとイメージが変わる。……いやっ、違う、違う違う違う……。」  壊れたプレーヤーの様に、口から声が溢れだす。  ズームと思っていたが、近づいたのは女だけだった。背景が少しも拡大されていない。  目を離せずにいる画面の中で、女の口が動いた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加