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町外れの丘陵地にある大きな家――通称お化け屋敷。彼女はそこに住み始めたようだった。
ようだった、というのは彼女は学校にすら現れなかったからだ。
ただ、これまで明かりのなかったそこには明かりが灯るようになり、時折市松人形のような女の子が二階の窓に映ると噂が広がった。
ますますお化け屋敷だと友人たちが騒ぐ中、僕だけがその真実を知っている気がした。
彼女だと。
だがそれからも彼女は決して僕たちの前に立つことはなかった。
誰かが住んでいる気配はある。
なのに何故かあの家の住人はその大きな門の外へと出てくることはなかった。
一度だけ、好奇心旺盛な友人に誘われ、放課後屋敷を覗きに行ったことがあった。
鮮やかに色付いた町に影が長く伸び始めた夕暮れ時。近くに立つ樫の木によじ登って中を覗くと二階の格子窓の向こうにあの時の彼女が立っていた。
それはほんの一瞬で、一緒にいた筈の友人たちは何も見なかったと言っていたけれど。
僕は、やはりここに彼女が住んでいるのだと確信した。
小さな町だ、もしかしたら親たちは何か知っていたのかもしれない。
お化け屋敷だと騒ぐ子どもに親たちは、あれは金持ちの別荘なのだと教えた。
子どもの興味など長くは続かない。
そんな事実が広まるとともに、時間が噂と興味を薄めていった。
ただ一人、僕を除いては。
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