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いつもならそのまま通り過ぎていたかもしれない。
けれど、自転車をこぎながらゆっくりとのぼってゆく視界に見えてきたのは古いブランコに座る一人の女の子で。
薄暗い明かりに朧に映し出されたその人形のような面立ちにあの日の記憶が重なって、僕は咄嗟にブレーキをかけていた。
「……あ、あのっ！」
公園に入るとすぐ、口笛がなり止んだ。
もしかすると、これが俗に言うナンパというものなのか。
初めて女の子に声をかけるという難業に心臓が小躍りする。
そんな僕を見上げたその人は、あの時とは打って変わり、ジーパンに白いTシャツというラフな格好だった。
それでも真っ直ぐに揃えられた前髪が、緩めにくるりと一つに纏められたその長い髪が、温度のないその眼差しが。
やはりあの少女の面影を残しているように見え、心が沸いた。
思い出とは過分に色がつくらしい。
まるで憧れていた芸能人と対面するかのような興奮に包まれるなか、青白くすら見えるその顔が真っ直ぐにこちらを見上げる。
じっと僕を見る黒い双眸。
その何かに囚われた感覚に、ごくりと唾を飲んだ。
「……その、もしかして君、あの別荘の人？」
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