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その言葉が少しだけ意外だったのか、彼女は僅かに目を大きくする。
そして何かを値踏みするように僅かに目を動かし僕を見ると、ふっと小さな笑みを漏らした。
「……なに、ナンパ?」
初めて聞く声は想像よりも低かった。
けれどそんなことよりその冷たい眼差しが意味することのほうが今の僕には重要だ。
「ちっ、違うから! 昔うちの寺で君を見かけてずっと気になってて、やっと会えたから、そのっ……」
だけど言い訳する声もだんだんとしどろもどろの尻つぼみになる。
改めて口にすると自分でもそこそこ怪しい人に思えてきたからだ。
昔って。一体何年前の話だよ。ずっと気になってたなんて気持ち悪過ぎる……。
嘘ではない。嘘ではないが、人によってはダッシュで逃げられてもおかしくない内容だ。
はたと言葉に詰まり僅かに視線が落ちる。
沈黙が、胃に痛かった。
「……あの時の」
キィ、とブランコが小さく鳴った。
顔をあげると、丁度彼女がゆっくりと立ちあがるところだった。
「覚えてるよ。ここに来て初めて会った子どもだったから」
その言葉に、今しがたまで抱えていた不安が一気に消え去った僕は単純だ。
覚えていたのは自分だけではない、その事実が妙に嬉しくて心が震えた。
「貴方名前は?」
人形のような美しい微笑みが、僕を射抜く。
「上原、一真(カズマ)……」
「そう、じゃあ一真」
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