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まだ小さく見えていた彼女に向かって、僕は必死に走る。
声に気付いた理沙が、振り返る。
僕は走って来た勢いで、彼女の手を取った。
しかし、彼女の手からは、冷たい指輪の感触がした。
心に急ブレーキを掛けられた僕は、直ぐに手を放す。
頭を振った僕は、下を向いたまま言う。
「ず、ずっと、ずっと…好きだった。
だから、いつも頑張れた。…言えなかったのは――…」
顔を上げた僕は、理沙が泣いていることに気付く。
「え…」
理沙は涙を拭きながら、微笑む。
「分かってたよ。そんなこと…。
憲斗、いっつも顔、真っ赤だもん…」
理沙の涙の訳は分からないが、
想いを知っていてくれて、それで東京に行ったのなら、
告白したところで結果は同じだったのだと思い、
僕はまた俯く。
「で、でも、僕もちゃんと…、
どうにか他の女の人を…、頑張って探してるよ」
僕の言葉を聞いた理沙は、ゆっくりと頷く。
「そ、それに、みんなが本当は仲間だってこと、
気付く方法も分かったんだっ。
その…、うちの大学、変に最先端の研究所があってさ。
地球の人口や経済、人権、気候変動、脳の小さな進化とかの
データを使って、未来予測シュミレーションの解析ができてさ。
人類の未来の方向を大きく333方向で予測して…、
はは、こんなだからモテないんだけど…」
理沙はまた微笑んだ。
「とにかく、凄い結果がもうすぐ出そうなんだ。
それが少し行き詰まってて、息抜きしてたんだけど…、
大丈夫な気がしてきた。理沙に、逢えたんだもんなっ」
理沙は微笑ったまま、また涙を流し始めた。
「憲斗ならきっとできるよ。
…あ、さっきそこで貰ったお餅、あげるよ。
…ありがとね」
「え?お餅?…」
僕が紙に包まれたお餅を見て、顔を上げると、
理沙の姿はなかった。
人通りの少ない路地を、木枯らしが抜けていく。
辺りを見回したが、やっぱり理沙はいない。
「げ…幻覚?…いや、いたよな…。理沙…」
ブルル……
内ポケットの携帯が鳴ったので、
僕は周囲を見ながら、携帯を取り出す。
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