風花

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1  習い事が何もない日は、少しだけ寄り道をしてから帰宅する。風花(フウカ)が人気のないがたがた道の石の上を跳ねるように歩くと、ランドセルの中で教科書や筆箱が、かちゃかちゃと楽しげな音を立てる。 『何でも買います』  足を止めた先にある、筆でさらりと書かれただけの古ぼけた看板が、その店の目印だった。  目当てのものはいつも、籐で編まれた籠に入れられて、店の外にぽつんと置かれた木の椅子に乗せられる。眉根を寄せて新聞を眺めている気難しそうな老人の目を盗み、風花は籠の中からいつもの筒を手に取った。  その場にしゃがみ込んで筒を両手に持ち、日が傾き始めた空に向ける。中央にあるレンズのついた穴を覗き込みながら、くるくると筒を回す。赤や藤紫、黄金色のきらめきは徐々に形を変えてゆき、模様はめくるめく変化をする。柔らかい和紙の貼られた小さな筒の世界に、風花はうっとりと見入った。 「それ、気に入った?」  突然かけられた若い声にはっと顔をあげると、そこにはやけに赤い唇をした華奢な男が立っていた。慌てて籠の中に筒を戻し、店主の老人に見られてはいないかと目を送る。難しい顔をして新聞を見ていたはずの老人は、いつの間にか姿を消している。風花がほっと息をつくと、一挙手一投足をじっと見つめていた青年はクスっと笑った。
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