風花

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「綺麗でしょう」  腰を屈め、青年は風花と目線の高さを合わせた。風花は無言のまま頭を縦にふる。 「これね、僕が作ったんだ」  籠からひとつ手に取ると、青年も風花と同じように、小さな穴を覗きながら筒をくるくると回した。 「万華鏡っていうんだよ」 「まんげきょう……」  不思議な筒の名前を知って、風花は思わず繰り返した。青年が万華鏡を下ろすと、光を受けた瞳が一瞬青磁色に輝く。はっとして風花は目を擦った。 「僕は伊織(イオリ)。君の名前はなんていうの?」 「フウカ。お兄ちゃんはこのお店の人なの?」 「うん、そうだよ」  風花の視線は、自然と手元の万華鏡に落ちる。 「それはね、売ることはできないんだ」  「かえして」と言う代わりに、伊織は風花の前に手のひらを出す。渋々筒を手のひらに乗せると、おかっぱ頭の上にふわりと冷たい手が乗った。 「もし風花ちゃんが大人になってもそれを忘れられないようだったら、その時はあげるから」 「本当? 約束だよ」 「うん。今日はもう店じまいだ。また遊びにおいで」  青年は背伸びして外看板をかたんと外し、物で埋め尽くされた狭い店の端に立てかけた。
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