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風花はそれから長い間、店に通い続けた。
砂利だらけだった細道は、今はもうアスファルトで綺麗に舗装されている。道沿いにあった古いアパートの跡地には団地が建ち、万華鏡がたくさん置かれたリサイクルショップだけが、切り取られたように時代から取り残されている。
参考書がたくさん詰まった重そうなリュックサックを背負った風花は、ローファーの踵をかつかつと鳴らしながら流行の歌を口ずさむ。
学校帰りの寄り道癖は、子供の頃から変わらない。しかし年齢を重ねるにつれ、風花の目当てはいつしか万華鏡から違うものへと移り変わっていた。
「伊織さん」
雪崩がおきそうなほど積み重なった、ガラクタの前で首を傾げていた伊織は、呼びかけられて振り向いた。
「ああ、風花ちゃん」
風花はリュックサックを前に背負い直して参考書を取り出し、間に挟まっていた一枚の藁半紙を抜き取る。
「ほら見て。今日の日本史すごく良かったんだから」
「へえ、どれどれ?」
右目にかかる前髪を耳に掛け、風花から期末考査の答案を受け取ると、伊織は唸った。
「あと二点か」
「お願い伊織さん、おまけして。本当にすごく頑張ったんだから!」
「それはできないよ。こっちも一応商売だからね」
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