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「うそ。だってわたし、伊織さんが商売らしい商売してるの見たことないよ? 小学校の頃からずっと来てるのに」
リュックサックを足元に下ろし、風花はカウンターの向かい側にある古い回転椅子に座った。
椅子に座ったままくるくる回る風花の横を通り越し、伊織はカウンターの引き出しから丸い缶を取り出した。蓋を開け、小銭をゆっくりと数えながら指でつまむ。
「はい、風花ちゃん」
「あーあ」
風花の手のひらに乗せられたのは九十八円。渡したテストの点数と同じ金額だった。
「次は百点取って切りよく百円玉もらうんだから」
「うん、その方が僕も両替に行く手間が省けて助かるかな」
くすっと伊織が笑うと、風花は「もう!」と、腕を叩いた。
『なんでも買います』
この看板の文字通り、伊織は風花から何でも買い取った。
定期テストの答案から遠足のしおり、道端で摘んだ花や蝉の抜け殻、要らなくなったぬいぐるみ、使いかけのリップクリーム。金額はその時々でまちまちだったが、テストの答案だけはいつも点数と同じ金額で買い取られる。集めたこれらを何に使うのかは、風花には見当もつかなかったが、伊織がどんなものに価値を感じ、どのような値段をつけるのかということに興味があった。
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