風花

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5 「ほら。出来たよ、重兵衛」  重兵衛は手渡された万華鏡を覗いた。  雪の結晶と、勿忘草色のリボン。数字と緋色のペディキュア。かけらは徐々に風花の記憶に切り替わる。風花の過ごしてきた日々が、次々と映し出された。優しい眼差しを向ける伊織の表情は、旧知である重兵衛ですら見たことがなかった。複雑な想いで万華鏡の記憶を見ていた重兵衛は思わず溜め息を落とす。  伊織はテーブルの上を片付けて、ソファにもたれ掛かった。 「風花はカザハナとも読むね。彼女の名前は、雪になったみたいだ」 「……伊織、死んだ後に作られた偽物の記憶が紛れ込んでいる」 「偽物じゃない。彼女が確かにこの世で送った人生だ。お前は人が成長するのは死を受け入れるための準備だと言うけれど、ただそれだけじゃ悲しいじゃないか。もっとよく見てごらんよ。確かに僕たちに比べたらほんの短い命かもしれないけれど、その中に強い煌きを持っている。僕は魂を通してそれに触れる瞬間が好きなんだ」 「芸術家の考えることは俺にはわからん。たまには仕事をしろ、ここよりも下に墜とされるぞ」 「構いやしないさ。それに、どうせお前は僕がどこにいても遊びに来てくれるだろう?」  伊織は指先をくるくると回して、部屋の隅に置かれた箱から包みとリボンを解く。瓶と同じ色をした薄い皿に、箱の中のものがすとんと乗った。どこからかフォークが飛んできて、皿の端でぴたりと止まる。
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