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「どうしたの? なにを怖がってるの? 僕がいるからなにも怖いことはないんだよ」
そのおまえの存在が今現時点で一番怖いんだよ、だとか。おまえに何もしてもらわなくても俺はそんな思いをしたことはない、だとか。
そしてそれの礎となっていたのは、いつも隣を歩いてくれていた男が、藤吉が、いたからだ、と。
「っ、ざけんな! 俺は……!」
「ああ、もうだから駄目だって! 僕の萩ちゃんはそんなこと言わない! 言わないんだ、僕の萩ちゃんは、ぶげっ!?」
「ぶへ」とも「ぶご」とも形容しがたい漫画じみた声を上げて男がのしかかってきて、「ぎゃあ!」と俺も盛大に悲鳴を上げた。
見た目と一致してなかろうが、違和感が半端なかろうが最早どうでもいい。危機だ。俺の……考えたくもないが貞操の。
「離せ、変態! デブ! おい、この……ッ」
「誰が誰の萩ちゃんだって?」
妙に威圧感のある低い声とともに、のしかかっていた男の身体が持ち上がった。
既に意識がないらしい男のだらしなく伸びている四肢を呆然と見ながら、あれ、と俺は思い至った。と言うことは、さっきの奇声は俺を襲おうとしたがための気合の一声ではなく、何かしらの衝撃を受けてぶっ倒れた。そして俺はそれに巻き込まれたと、そういう落ちか。そうなのか。
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