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「横暴だ」
「しょうがねぇだろ、帰る家、一緒なんだから」
「それ! その人に誤解与えるような持って行き方マジでやめてくれねぇかな!? おまえのせいで俺がというか萩ちゃんのイメージがもう、ガラガラと。それはもうガラガラと……!」
頭を抱えんばかりに唸った俺に、「事実だろうが」とこれまた冷たさしかないような声が落ちてきた。
「事実って、同じマンションに住んでるってだけだろうが! それをあれだ、おまえ。まるで同棲してるかのごとく口にするときあるじゃん」
実際はただのお隣さんなのに、だ。
「しょうがねぇだろうが、おまえのおばちゃんが、『ごめんね、圭介くん。うちの子、東京に行くって言ってきかないんだけど、一人暮らしさせるの心配で。申し訳ないんだけど、慣れるまででいいから面倒見てやってくれる?』って、俺の部屋の隣が空いてるって知った瞬間に、引っ越してきた……」
「なんでおまえはそうやって一字一句ろくでもないことばっかり覚えてんの!」
「そりゃ、覚えてないとそれこそろくなことにならないからじゃねぇのか?」
厭味ったらしく笑って歩き出した藤吉に、仕方がないから俺も数歩遅れてついていく。
どう言い訳したところで、結局、帰るところ一緒だし。
藤吉の肩からぶら下がるでかい黒いショルダーバックが揺れていた。
藤吉の命より大事な……は言い過ぎかもしれないが、藤吉にとっての俺の命よりは明らかに大切であろう、奴の仕事道具。
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