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「おい、龍之介」
「なんだよ。っつか、その名前で呼ぶな。似合わねぇから、俺」
「似合うも似合わねもおまえの名前だろうが」
「いや、……いや、いや、まぁそうかもしれねぇけどね? 俺の雰囲気に似合わねぇじゃん」
「おまえの病気は知ってるけどな」
「は? 病気?」
「みんなにちやほやされたい、可愛がられたい病」
真顔でさらりと返されて、俺はうっと黙り込んだ。
いや、否定する気はないけども。なんか……なんか嫌だな、おい。
「みんなじゃなくて、たった一人にあいされたいとか、思わねぇの、おまえは」
「はぁ、なに気持ち悪いこと言ってんだよ、藤吉のくせに」
愛されたいと来たか。
藤吉のくせに。
というか、だから愛されたいんだって、俺は。すべからくみんなに。
全く持って藤吉の言っていることの意味が分からなくて、見慣れきった横顔を見上げる。
このプラス10センチの距離がまたムカつく。
そんなことを考えながら見つめていると、なぜか徐々に藤吉の顔が近づいてくるような気がした。
「ふじよし?」
「黙ってろ、クソガキ」
ぼそりと低い、そのくせやたらと熱っぽい声が鼓膜に直接響いたみたいに感じた時には、唇になにかが触れていた。
「藤、吉……?」
え。というか、え。なに、した。おまえ。
処理しきれない脳みそは完全にフリーズをかましていた。だって、なにこれ。なんだそれ。
いつも通りの顔で俺を至近距離から見下ろしていた藤吉は、
「だから馬鹿だって言ってるだろ、てめぇは」
と。そう囁いた藤吉の声は、フリーズしているからだろうか、俺の脳内でやたらやわらかい声音で再生されだしたのだった。
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