《その②》

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「だからホモじゃねぇんだって、俺は!」 ちょっと女装が好きなだけで! かわいいだけで! そのかわいさの所為で、あろうことか藤吉にうっかり唇奪われちゃっただけで! 勢い余って壁に投げつけてしまったスマホがガツンといい音を立てて壁沿いに落下した。 そして数秒と置かずにドンと隣室から壁を殴られた音が返ってきた。 「うるせぇ、ホモ」 藤吉である。間違いなく藤吉。 だがしかし壁に物を投げつけたのは俺なので。いや、元凶をさかのぼれば奴な気もしないでもないけども――、反論は小声にして、フローリングに転がったスマホを拾い上げる。 「くそ、あの藤吉。萩ちゃんになびかないと思ったらホモだったのか……」 いやでも、藤吉のことだからただの嫌がらせの可能性も捨てきれない。 だとしたら本気でブチ切れても許されるレベルだと思うのだけれども。 「クソガキ」と囁いて寄越した声の甘さが蘇るたびに、落ち着かなくてそわそわする。 だっておい、おかしいだろ。その甘さ。対俺用に必要な声か、それ。 「俺の美貌に隈を刻み込んだ罪はでけぇからな」 ぴちぴちのお肌を維持するために、というか寝るのが好きな良い子なので、俺は7時間睡眠を最低限でも毎日確保したいというか、確保している。 だというに、そんな俺が4時間しか寝れてないとか。 しかもその理由が、アホの藤吉のせいで、某掲示板に愚痴を書き続けていたからとか。 冷静にはたと我に返ってみた瞬間、馬鹿か俺としか思えない程度にはあれなのだけれども。 つまり、なんだ。 ぜんぶ、あのやろうのせいだった。
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