《その①》

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「モデルがいいからねぇ。萩ちゃんは、そこらへんのモデルの女の子より色気があるなぁ。良い絵が撮れる」 「柏木さんの腕がいいからですよぉ」 ふふふと含み笑いで近づいていくと、満更でもない顔の柏木さんにポラを見せて貰えた。 柏木さんは今では珍しい必ずフィルムで撮るカメラマンさんで、いつも最初にポラを撮る。 ポラロイド独特の四角い枠に収まった写真が俺は好きなのだ。 俺が可愛く映えるから素晴らしい性能である。そして俺だ。自分でも見紛うばかりの美少女ぶり。 つややかな長い黒髪を腰元まで垂らした少女が窓辺に腰かけて、伏目がちに静かな微笑を落としているベストショット。 なにこれ、かわいい。俺だけど。 「いやぁ、ホント独特の色気があるよねぇ」と俺の肩をもみもみ触りながら柏木さんがにやけているが、別段俺はリアル女子ではないので無問題である。 「ですよねぇ」 「萩ちゃんは自分の顔、好きだよね。女の子になりたかったの? まぁでもこれだけ可愛くなれちゃうんだからしょうがないか」 「んー、そうですねぇ」 表面上は曖昧に小首をかしげるだけに留めて、そりゃ可愛いでしょうよとほくそ笑む。 こんな女の子がいたら超好み。 男の俺がそう思って作りこんでいるわけだから、男にモテないわけがないのだ。萩ちゃんは。 異論点があるとしたら、「いやいや、俺、べつに女の子にはなりたいわけじゃないんですよ」というそれだけだ。 要するに俺は自己愛が強いのだ。おそらくに、割と異常に。だからちやほやされたい。ついでに言えば愛されたい。優しくもされたい。かわいがられたい。 そして案の定、単純な男どもは、内心どう思っているかは知らないけども、ひとまず俺の外見を――人気男の娘モデル萩ちゃんの外見を、褒めそやし、可愛がり、ちやほやしてくれていると。そういうわけだ。 だから俺は、男の娘モデル萩ちゃんなんてものを、かれこれ5年近く続けてしまっているわけで。 ――と言っても、まぁ、みんながみんな、可愛がってくれるわけじゃねぇけどな。
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