《その④》

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「ふじよし」 アスファルトに座り込んだまま、元凶(仮)を見上げる。藤吉は、本気で嫌そうな顔で完全に意識のないらしい男を路地に放り投げた後、「だから言っただろうが」と険のある声を落とす。 確かに、言ったかもしれないけども。 言われたかもしれないけども、今この状況で開口一番に言うことがそれか。これがあれだ。俺じゃなくてまりえだったら、「大丈夫」って駆け寄って助け起こすところじゃないのか。そういうお姫様的展開じゃないのか。 ほっとしたと同時に不満が胸中をぐるぐるとまわり始めるのだから、土台、俺はこの男が夢見るような天使ちゃんじゃないのだ。 「懲りたかよ、ちょっとは」 今度は若干、トーンが和らいだ声だった。それでも不貞腐れたように何も言わない俺の傍に藤吉がしゃがみこんで、なにかを拾い上げた。 ぽんぽんと、土ぼこりを払うように持ち上げられたそれは、藤吉がいつも持っているカメラバックだった。 「おま、それ、おまえの」 命よりとは言わなくても、少なくとも俺より大事なはずのカメラ。さぁっと俺は顔から血の気が引いた。あれか。さっきの男がもんどりうった原因は、そのカメラか。 ……投げたのか。 やっと喋った俺に、藤吉が眉根を寄せたままぼそりと応じる。
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