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「龍之介!」
「げ……藤吉」
そのかわいがってくれない男・筆頭の不機嫌な声がスタジオの入り口から飛んできて、うっかり俺から萩ちゃんの声音が抜け落ちた。
というか、てめぇ。
萩ちゃんのときの俺をその名前で呼ぶなと何度言ったら分かるんだ、このやろう。
憤然と睨み返すと、藤吉は心底ムカつくことにイケメンに分類されるだろう顔を、さも呆れたと言わんばかりにしかめてみせた。
「おまえ、撮影終わったんなら、その濃いメイクとっとと落として来いよ。あとヅラ」
「ヅラじゃねぇよ、ウィッグだよ。あと俺のメイクは一切濃くねぇからな、ナチュラルメイク」
「ナチュラルに見えるように濃く盛ってるだけだろうが、龍之介は」
巷で大人気の萩ちゃんの美貌を一笑した藤吉に、「だからこの格好してる時にその名前で呼ぶなって言ってるだろうが!」と。地声で叫んだ瞬間、はたと俺は我に返った。
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