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「え、えへ……」
俺の肩を抱いていたはずの、柏木さんの手が中途半端に宙に浮いている。
「そうだよね、萩ちゃん、男の子だもんね」
「なに当たり前のこと言ってるんスか。もうすぐ成人するクソガキ捕まえて。ついてるもんはついてるし、剃ってるだけで、すね毛もやばいッスよ」
「藤吉、てめぇ……」
今度こそドスが入りすぎた俺の声に、柏木さんがまた一歩後ろに下がった、気がした。……が、時すでに遅しである。
あぁ、俺のこのスタジオでのイメージが。むしろ俺が保ってきた萩ちゃんのイメージが。
ガラガラと。崩れていく気がするんだが、おい、藤吉てめぇ。
背後を振り返るに振り返れない俺に、藤吉がいっそ似非臭いとののしってやりたい笑顔で手を振った。
「ほら、油売ってねぇで、帰るから準備してこいよ」
失せろ、藤吉。
そして俺は男の娘モデル萩ちゃんの最後の意地でもって、魅惑のエンジェルスマイルを振りまきながらスタジオを後にした。
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