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「信じられねぇ! マジで信じられないと思いません!? 何様だよ、あのクソカメラマン!」
言葉は乱暴に、だが手つきはあくまでもソフトに。俺は俺を美少女たらしめている化粧をメイク台で落としていく。
ウイッグも外してしまえば、鏡に映るのは、悲しいかなどこにでもいるレベルの男子大学生である。
女顔なわけでもないので、俺を萩ちゃん足らしめているものは、世のお姉さま方もびっくりの俺のメイク技術と、研究に研究を重ねて身に着けたあざとい空気感だけだったりする。
「クソカメラマンって、藤くんのこと?」
「そうですよ、あの藤吉のクソ野郎ですよ!」
お気に入りの化粧水で肌のお手入れをしながら頬を膨らませて主張した俺に、悠さんが目を瞬かせた。
「藤くんかっこいいじゃん。あたしらの中でも結構人気あるけど」
「それがまたクソ腹立つんですってば!」
あのちょっと冷めた感じがかっこいい、だとか。
そっけなく見えて、その実、優しいところにきゅんとくる、だとか。
聞きたくもないスタッフさんの奴に対するそんな総評を、何度俺が聞かされたことか。
そのたびに、「いやいやいやいや、そんなわけないでしょうよ」と喚きたいのを決死の猫かぶりで呑み込んできたのだけれども。
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