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「頭固いから。あいつ。だから、一応ウチの親に義理立てて、俺の面倒看てるんじゃないですかね」
「知らないの、萩ちゃん」
鞄をひっかけて立ち上がった俺に、悠さんがもう一度首をかしげて見せた。
「藤くん、萩ちゃんの撮影の終わる時間に合わせて上がれるようにお願いしてるんだよ」
「……」
「知らなかったわけじゃないんでしょ?」
にこ、とやさしく手を振ってくれる悠さんにぺこりと頭を下げて控室を後にする。
出入り口に向かって進んでいくと、壁にもたれかかっていた藤吉と目があった。
ご多分に漏れず不機嫌そうな顔である。
「遅い」
「しょうがねぇだろ、女の子は準備に時間がかかるの。そういうもんなの」
「何言ってんだ。てめぇは女の子じゃねぇだろうが」
そしてこれである。
冗談とか、軽口とか。「なに言ってんだよ、こいつぅ」的なのでは一切なく、「は? 頭湧いてんのか、てめぇ。なに言ってんだ」である。
じとりと恨みがましい目で睨み上げた俺から、面倒くさそうに目をそらして、それからぼそりと「いいから帰るぞ」と促してきやがった。
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