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あの時を思い返すと…
吉永心太(よしながしんた)は、
今でも背筋に何か冷たい物が走るような気がするのだった…。
それは…去年の夏の事。
当時、彼はある工事現場で警備員のアルバイトをしていた。
心太が、『ルーク警備保障』という警備会社でアルバイトを始めて約二年。
今では、会社の信頼も得て、一人で警備の現場に入る事も時々有る。
(この会社が請け負っている警備業務は実に幅広く、工事現場の交通誘導警備は、もちろんの事。デパートやショッピング・センターのオープン警備なんかも、やっている)
当時…心太が一人で入っていた現場は、
通信関係のケーブルを地下に入れる夜勤の工事現場だった。
夜9時から翌朝4時まで…
約十日間の予定で、
既に心太は、その現場に三日間入っていた。
それで、その現場というのが、
心太が独り暮しをしているアパートからバスで三十分ほどで行ける所に有り、現場には自宅から直行直帰という事でOKだった。
車通勤ができれば良かったのだが…
心太は、数年前まで働いていたデザイン会社が潰れ、失業したのをキッカケに自分の車を手放してしまった。
警備のアルバイトをしている今の彼には、車を買うなんて夢のまた夢の話…。
さて…。
現場に入って、最初の三日間…
心太は、行く時はバスを利用し…
帰りはタクシーを使うなんてもったいないので、始発のバスが出る朝6時までの二時間は…
現場の近くのファミレスでコーヒー、一杯だけで時間を潰したりしていた。
が…
さすがに、三日間連続で同じ事をしたら、ファミレスの店員に何となく気まずい物を感じたりもした。
そこで、心太は何日かにイッペンくらいは、歩いて帰宅する事も考えてみた。
「もし、歩いたら…だいたい…一時間位か…」
さすがに、毎日は疲れるが…
まあ、体力に自信の有る心太にとっては、たいした距離でもないし…
今は、夏の8月。
イイ運動になるし、
コーヒー代とバス代の節約にもなる。
さて…
現場に入って四日めの事…心太は、途中コンビニに寄り道しながら徒歩で帰宅してみた。
やってみると、意外と疲れを感じなかった。
「しばらく、毎日歩いて帰ろうかな。この現場、あと六日間で終わりだし…」
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