2156人が本棚に入れています
本棚に追加
「……緊張してんのか?」
俺の隣を歩く央司は、楽器ケースを大切そうに抱きながら顔を強張らせている。
央司の反対隣にいる将輝も、央司の様子を窺う。
「そんな心配すんなよ。あんなに一生懸命、練習してたじゃんか」
「でも……」
「大丈夫。落ち着いてやれば良いんだから」
まだ表情の固い央司の背中から腕を回し、遠い方の肩をポンポンと叩いてやる。
「――ん、ありがと」
それも、所詮は気休め程度の励ましにしかならないのだろうが。
「世の中、意外と何とかなる」
「お前が言うと、妙に説得力あるな」
将輝の激励に思わずツッコむと、央司は眉を下げて小さく笑った。
「……じゃあ、俺あっちだから」
「おう。またあとでな」
「じゃ」
演奏のある管弦楽部は、クラス席の他に専用の席が用意されている。
開会式から演奏するため、央司とはグラウンド入口で別れ、俺と将輝はクラスの方へ向かう。
「そういや、お前が出るやつって結局、マジで内容知らされてねーの?」
「んー」
出場競技をなかなか決められなかった将輝は、クラスメートの推薦で生徒会競技に選出された。
具体的な内容は当日、競技前に発表らしく出場者にも知らされていないらしい。
練習をしなくて済むのは羨ましいが、一体何をさせられるのか。
最初のコメントを投稿しよう!