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「どうした、将輝」
「いや……」
そう言いながらも、将輝はツボに入ったのか笑うことを止めない。
「……お前ら、馬鹿にしに来たんなら失せろ」
「は? 馬鹿にしたか?」
「梓馬、止めとけ」
状況を理解できていないのは俺だけのようで、将輝は俺の肩に手を置くと、ついて来いと背を向ける。
とりあえず、ここは素直に退散すべきかと体の向きを変えたその一瞬、俺の視界に神相賀の顔が入った。
苦虫を噛み潰したような、しかしそれを悟られたくないような顔が印象的で、俺はつい、また神相賀の方を向いてしまう。
「――んだよ、さっさと行けよ」
「ん。そうなんだけど……さ」
不機嫌な神相賀に睨まれ、流石に少し尻込みしたが、これだけは伝えておこうと意を決する。
「何か、気に障るようなこと言ったんなら、ごめんな」
「……は?」
将輝に催促され、ポカンと口を開く神相賀をそのままに、俺は将輝の下へ早足で向かう。
怒鳴られる前に逃げてしまったが、あとで呼び出しとか食らわないだろうか。
「何してんだ、アホ馬」
「いや、うん……。何か、悪いことしたのかなと」
「――で?」
歯切れの悪い俺を見て、将輝は珍しく質問を重ねた。
「だから一応、謝っておこうと」
「――ああ……そゆこと」
後方を一瞥し、納得したように頷く将輝を見上げる。
その視線に気が付くと、将輝は俺に焦点を合わせ、僅かに口角を上げた。
「……俺はそのリアクションを、どう受け取れば良いんだ?」
「好きに受け取れば?」
余裕綽々な態度で俺の頭に手を乗せる将輝に、とりあえず肘鉄をお見舞いしておいた。
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