体育祭の王道なワケ

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「次の競技は、1年生による短距離走です。選手の方は――」  校内に設置されているスピーカーから、進行の声が聞こえる。 特別棟2階にも、その声は届いていた。 グラウンドで催されている体育祭の賑やかさとは裏腹に、南側の廊下に多くの風紀委員が緊張の面持ちで集まっていた。 「おい、丸越那緒(まるこしなお)。聞こえるか。扉を開けて出てくるんだ」 「要求が通らなくちゃ、僕らはここから出ません!」  風紀委員長の声にも応じようとしない那緒(なお)は、扉の中で拡声器を持つ手に汗をかいていた。 「……思ったより、なかなか風紀さまも承諾しないね」 「僕たち、いつまでここにいるのかな?」 その後ろでは、不安の色を見せる隊員たちが大勢いる。 ここで折れるわけにはいかない、と那緒は自らを鼓舞すると大きく息をはく。 「まだ、体育祭終了までには時間がある。それまでにオッケーが出れば良いんだから」 机やピアノ、掃除用具等あらゆるものが積み重ねられた頑丈な壁を睨み、その向こうにいるであろう風紀委員会を見据えた。  彼ら、親衛隊の要求はただひとつ--松崎真実の生徒会補佐の取消しだった。 たったそれだけの為に、100名近くの生徒が学園の3大イベントに数えられる体育祭に参加せず、親衛隊の談話室に立てこもっていた。
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