体育祭の王道なワケ

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「……おい、どーすんだよ」 「爽一(そういち)さま、どこ行ったの?」 「生徒会競技って得点高いし、棄権するのは……」  午後のプログラムが進む中で、クラスメートたちも斎藤の不在に戸惑い始める。 騎馬戦で健闘したA組は、得点を伸ばし2位まで上り詰めていた。 あと少しで優勝に手が届きそうだという状況下で、諦める気にはなれない。 「じゃあ、誰か代わりに出る?」  その言葉に応える者はいない。 優勝を掛けた競技に、率先して出場する勇気はないのだ。 ましてや、ペアの将輝はファンがつく程の容姿だ。 親しくなければ、おいそれと隣に立つのも気が引けるらしい。 チラチラ、と互いに視線を送り合うクラスメートを傍観していると、二の腕に何かが当たった。 「どした、将輝」 見ると、将輝が俺のすぐ横に立っている。 恐らくジャージに手を突っ込んだまま、肘を当ててきたのだろう。 「梓馬、お前が出ろ」 「は?」 俺の方も見ずに将輝はそう言うと、相談するクラスメートたちに近付いていく。 「斎藤の代わりに、二ノ宮が出る」 「ちょ、おいおい! 冗談だろ!?」 昼食の時にそんな話はしていたが、まさか本気で斎藤の代打をさせる気なのだろうか。 慌てて将輝の横に並び、顔を覗き込むと冷ややかな顔で見下ろされる。 「……なら、他に誰がやる」 「え……」 グルリと周囲を見回すが、視線を逸らされたり困った顔をされたりと反応は良くない。 体力のありそうな奴らもソワソワとしているが、視線はこちらに向かない。
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