序章

2/5
前へ
/447ページ
次へ
「本当に行っちゃうんだね」  新幹線のホームで、幼馴染みがしんみりと呟いた。 出発まで1分を切った。 「ああ、後は頼む」 「頑張れよ、兄ちゃん」  いつの間にか、俺より少し背の高くなった弟が固い顔で励ましてくれる。 「お前もな」 ニッと笑ってやると、弟もぎこちなく笑い返した。 「あーちゃん、早く帰ってきてね」 「おう、夏休みには帰ってくるから。良い子にしてるんだぞー」 弟の腕の中で未だに鼻の頭を赤くした妹の頭を撫でてから、俺は新幹線に乗り込んだ。 「行ってらっしゃい! 梓馬(あずま)!」  妹に釣られたのか、幼馴染みの目がさっきより潤んでいる。 しかし、笑って送り出してくれるらしく、口元が不自然に引っ張られている。 茶化してやろうかとも思ったが、今日は素直に見送られようと思い直し、1度口をつぐんだ。 「行ってきます」 発車のアナウンスと共にベルが鳴り、新幹線は走り出した。
/447ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2156人が本棚に入れています
本棚に追加