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「本当に行っちゃうんだね」
新幹線のホームで、幼馴染みがしんみりと呟いた。
出発まで1分を切った。
「ああ、後は頼む」
「頑張れよ、兄ちゃん」
いつの間にか、俺より少し背の高くなった弟が固い顔で励ましてくれる。
「お前もな」
ニッと笑ってやると、弟もぎこちなく笑い返した。
「あーちゃん、早く帰ってきてね」
「おう、夏休みには帰ってくるから。良い子にしてるんだぞー」
弟の腕の中で未だに鼻の頭を赤くした妹の頭を撫でてから、俺は新幹線に乗り込んだ。
「行ってらっしゃい! 梓馬!」
妹に釣られたのか、幼馴染みの目がさっきより潤んでいる。
しかし、笑って送り出してくれるらしく、口元が不自然に引っ張られている。
茶化してやろうかとも思ったが、今日は素直に見送られようと思い直し、1度口をつぐんだ。
「行ってきます」
発車のアナウンスと共にベルが鳴り、新幹線は走り出した。
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