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Ance 獅子王
街は騒めき立っていた。
空は煙で覆われている。灰色の空。それがここ、エシューという国の日常だった。街に立ち込めるマナの残滓。灰色に濁ったそれはどうみても生物に悪影響をもたらすように見えた。人々は世話しなく動き回る。それが都市バルバロイの日常。マナを利用した生産技術は日に日に進歩し、鉄鋼騎士達の牙を生み出す。魔弾。この軍事国家の最大の武器はここバルバロイの生産能力にあった。
この町は常に灰色の霧に覆われている。霧の町。それはマナの残滓だ。ここに生きる人間はみな働くことばかり考えている。そんな彼らが騒めき立っていた。みな一様に同じ話題を話す。
「聞いたか」
「あのカイサルの再来が?バカな」
「そうはいっても私だって聞いたぞ」
「ただの噂だ、人間には彼を殺せない」
「フォーミュレンチの奴らじゃないのか。不気味な術で神の摂理を捻じ曲げると聞いたぞ」
「あいつらが彼を?それなら時代遅れの騎士共の方がまだ説得力があるがね」
「いったいどういうことなんだ」
「やはりただの噂だろう」
「しかし、昨日の凱旋に彼はいなかったじゃないか」
「ただ負傷しただけじゃないのか?」
「それこそバカな」
人々は、通りの隅々で同じ話を続けていた。顔はマナで汚れ、煤けている。工場が密集している狭い路地で生産性のない噂が拡販し続けていた。
「どういうことだ」
言葉は時として刃になる。こと彼、バルバロス・グレングにおいてはその一太刀の重みが違った。
「……。今、申し上げた通りでございます。閣下。鉄鋼騎士団、獅子王隊、隊長、ボリス・ガイアス。戦線復帰は、不可能です」
銀鷹ファルコ―ニは断腸の思いで此度の戦線結果を報告した。
「死んだか」
眉も動かさず返答した。座す姿には微塵も動揺は感じられなかった。
「ほぼ、死に体です。肉体の損壊と同時に魔術回路も破壊されています。一体どうやったのかは不明ですが、一閃で断ち切られた様子。…手口から推察するに、キングダムの仕業ではないかと」
国主は鷹のような目を閉じて答えた。
「戦況報告は受け取っている。下がれ」
「…。失礼いたします」
参謀が部屋を出ていく。残された彼は思案していた。如何なる手段でかの英雄が破られたのかを。
「所詮、贋作か」
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