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一言呟き、覇王は目を開いた。
ボリス・ガイアス。齢十四にして鉄鋼騎士団獅子王隊の隊長を務めた逸材。その驚くべきは銃剣の練達のみにあらず、その魔術回路にあった。彼の魔術回路が発現可能なのは火のマナのみであった。しかし、その許容範囲は常人の約八十二倍。己の身を焼き尽くす程の彼の魔術は魔銃のために存在するといっていいほど、この戦闘法に馴染んだ。彼の魔術の領域はガランドランのような広大な平野地帯ならばほぼ全域。視覚強化の補助を加えれば彼に射抜けない標的は無かった。彼の戦役は四年前、十歳の時に始まる。初戦でキングダムとの攻城戦に投入された時は、かの悪名高い結界を破壊し、敵を敗走させた。課題とされていた閉所での戦闘でも、彼専用の連続式魔銃が開発されてからは死角はなくなった。キングダムに彼専用の対抗呪文を開発される等、強すぎるが故の制約というものはあったが、彼の存在の前では霞ほどでしかなかった。
その獅子が今、斃れていた。
彼の照準補助士、クリス・ダンカンは祈るように医務室に横たわる彼の手を握っていた。医務室には他に医師以外は誰もいない。当然、かの英雄が倒れたとあっては指揮に関わるからだ。恐らくこの事実に対しては情報操作も行われるだろう。それほど、この四年間の彼の働きは目覚ましかった。
「誰だったんだい?」
クリスの後ろから声が飛んだ。医者のその声は重い。クリスは自らの金の髪を揺らした。
「分かりませんでした。一瞬のことでしたから、私はほとんど、何も。…対応することができなくて」
彼女は、自らの感情を押し殺そうと必死になっていた。悔しくて思い出すことも憚られる。その気持ちを手を握る力に変える。だが、彼は応えない。
沈黙が再度部屋を支配する。知っていた、彼らはこの空気を。これが敗北というものなのだということを。
獅子が切り伏せられてから、およそ四日。襲撃者の目星はいまだついていなかった。
――四日前――
「え?何ですか?クリス?」
「だから、敬語はやめなさい。あとここはまだ戦場じゃありませんよ?」
姉さんも敬語じゃないですか、と返したくなる気持ちを幼い獅子王はこらえた。
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