2人が本棚に入れています
本棚に追加
ガチン、ガチン。世界を回す歯車の音。ガチン、ガチン。
ガチャン、ガチャン。僕の中の歯車の音。ガチャン、ガチャン。
剣が駆け抜け、呪文が空を覆う。これはそんな世界のおはなし。
ガチン。
Pre 彼の世界
森の中を影が走り抜ける。太陽は森の木々の隙間から差し込み、その恩恵をその影にももたらしている。それは人の形をしており、ものすごい勢いで走り抜けていた。
森の中を駆け抜ける。腰のバックルに差してある相棒はガチガチいって存在感を僕に伝えてくる。左手で鞘を押さえながら僕はさらに足を急がせた。目印まであと、1,2,3、、4,5、
少年だった。髪は紫紺、目は刺すようなまでの純粋さ。腰に下げた剣は彼の体と一体となっている。服装は白いシャツに黒いパンツ。育ちの良さを感じさせる作りのそれは、彼の人間離れした動きにも崩れることはないようだ。
「そらぁっ!」
小高い丘からジャンプする。目の前に広がるのは空の青さ。それと湖の蒼さ。見とれながらも腰に差してある剣はしっかりと水防の呪文をかけておいて、1,2,3,4,――ドヴォン~!――
「最高!」
マナの配置は炎のレイアウト!しばらくはこうして水浴びができる!仰向けになって水のベッドに寝そべってると、やっとイライザが飛んできた。
「速いよ、アンジェ」
「遅いよ、イライザ」
二人同時に噴き出す。このタイミングはいつものやり取りなんだ。
「nlsnflenlkmvls!!,poefosnoijvo….」
「あっ、ごめん。呪文切れた、もう一回言って?」
言語横断の呪文をもう一度唱える。これが無いとイライザとは話もできないんだ。全く不便なもんだよ。妖精の使ってる言葉ってなんか蜂が飛んでるみたいな音なんだよね、すっごい早口。
彼は妖精と話していた。妖精とは大体、十㎝ほどの生物で、言語ももちろん人間とは違う。イライザは妖精ではよくあるタイプの羽をしていた。妖精の中では羽というのはかなりのアイデンティティを示すようで、たまにアンジェに彼女はその悩みを話す。
「だから、みんなアンジェみたいなのが人間だったらよかったのにねって」
妖精は彼の間を飛び回りながら答えた。光の塊のようなそれは、夕暮れのこの世界でひときわ目立っている。
最初のコメントを投稿しよう!