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これが僕がイライザと初めて会った時に交わした言葉。二年前だったかなぁ。まだちゃんと覚えてる。自分のことながら一杯いっぱいだったんだ。それもよく覚えてる。だって、どうしてもイライザと話したかったんだもの。
妖精は人間を憎んでいる。きっとエルフも、ドワーフもゴブリンも、もしかしたらダークエルフやドラゴンも。でも、人間はまだ生きている。なんでかって?簡単さ。一番強いだけだよ。人間ってのはね。
これは先生の言葉。イライザと人間の話をするたびに思い出す。なんていうか、いまいち信じられない。ドラゴンやダークエルフより強い?人間が?うーん、先生のいうことは難しい。
アンジェはイライザと別れて、家まで戻ってくる間、そんなことを考えながら歩いていた。いつも通り、剣術の稽古をして家に戻る。
彼の家は、森の奥の大樹が四本茂った場所にあった。彼は知らなかったが、ここは、この森のマナの残留値であった。
「ただいま、先生」
扉を開いて、家に入る。家の外観は森に合うように、緑と茶の色合いでくみ上げられていた。大きさはだいたい五〇m四方をそのまま切り取ったような広さ。その内装も美しく整えられていた。家には、個人の部屋が三つ。蔵書室、研究室、研究室、研究室、とあと研究室。魔法言語学者ヒュガンズ・ワイズ博士の家はこのような内観だった。
「お帰り、アンジェ」
長髪の紳士は振り返らずに答える。
「今日は静かな先生だから、言語学の日?」
手元に持っていた資料を備え付けの机に置き、教師は振り返った。
「いや、今日は魔術をやろう」
目にはフレームの薄い銀眼鏡、髪もそれと同じように白。彼の出で立ちはどこかの研究者のように白衣に包まれていた。育ちのよさそうな顔には白い髭が目立つ。アンジェの紫紺の髪とは対照的だった。
「もう十六なんだから、そろそろ魔術回路の解析に入ろうか」
アンジェは肩までに切りそろえた髪を振り、反論した。
「えーやだよ!あれつまんないじゃん!先生静かな時は解析とか研究ばっかさせるけど、僕あれ好きじゃないよ!」
その答えを聞いてはいたのだろうが、何事もなかったように本をアンジェの前に用意する。
「さぁ、始めようか」
人懐こい笑みを浮かべて彼は言った。
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